大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)2996号 判決

被告人 加藤義雄 外

〔抄 録〕

A弁護人の論旨第一点、B弁護人の論旨第四点並びにC弁護人の論旨第四点中訴因関係の部分について。

各所論に鑑み昭和二十九年四月二十六日附被告人加藤及び被告人池田に対する各起訴状記載の各公訴事実と原判決の右被告人両名に対する各認定事実とを比較検討し、訴訟記録を査閲するに、右被告人加藤に対する起訴状には、被告人加藤は……池田喬穂方において同人に対し同人が東京調達局管理部不動産評価課土地係員をしていた頃入間川基地住宅用接収地地主組合員所有の接収地に対する借上料を高額に算定してくれたことの謝礼の趣旨で金五万円を贈与し以て其の職務に関し贈賄し云々と、右被告人池田に対する起訴状には、被告人池田は……東京調達局管理部不動産評価課土地係員として民公有接収地に対する賃貸借料算定等の職務に従事していたものであるが……入間川基地住宅用接収地地主組合の副組合長加藤義雄より同組合員所有の入間川基地住宅用接収地借上料が高額に値上げされたことの謝礼の趣旨で供与されるものである情を知りながら金五万円の供与を受け以て其の職務に関し収賄したものである云々と各記載しあるのに対し、原判決の被告人両名に対する認定事実は、被告人加藤は……被告人池田に対し右情報提供等の謝礼の趣旨で現金五万円を供与し以てその職務に関し贈賄し云々(原判決の事実摘示(一))、被告人池田は……被告人加藤義雄から同被告人が前示趣旨で供与するものであることを知りながら金五万円の供与を受け以て其の職務に関し収賄し云々(同上(四))と各摘示されておること並びに原審においては検察官が右被告人両名に対する前記起訴状記載の公訴事実について格別訴因変更等を申立てることなく其の儘審理判決したことは所論のとおりである。

よつて原判決は果して所論のように審判の請求を受けた事件について判決をせず且つ審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるかどうかについて按ずるに、訴訟記録並びに原審において取調べた各証拠によつて窺われる本件接収地の借上料(昭和二十七年七月二十八日以降は賃借料という)値上問題の発端から終局までの過程に徴すれば、原審検察官は被告人両名を起訴するに当り右過程のうち最終段階に焦点を置き本件接収地に対する借上料、賃借料が土地所有者のため高額に算定されるに至つたのは要するに被告人池田の所為によるものであつて、本件の現金五万円は即ち其の謝礼の意味で被告人両名間に授受されたものとなし、その旨被告人両名に対する前記各起訴状に公訴事実として掲記されたのに対し、原判決は本件借上料、賃借料の評価算定それ自体は一般接収地の地代値上に関する原判示第四次第五次改定に従い右各所定の手続によつて機械的に行われたもので其の間何等不正行為はないのであるから其の結果たとえ本件接収地の地主に対し高額の借上料、賃借料が支払われたとするもこれを以て被告人池田の職務上の有責行為となし現金五万円の授受行為を涜職罪に問擬するは妥当でないと判断する一方若し被告人池田に本件接収地の地代値上問題について何等か職務上の非違あるとするならばそれは同被告人が被告人加藤に対し地代値上に関する第四次第五次改定に関し原判示情報を提供したことにありとなし本件の現金五万円は即ち右被告人池田の情報提供に対する謝礼の意味で被告人両名間に授受されたものと見るのが最も事案の真相に適合するものとなし原判決に其の旨犯罪事実として摘示するに至つたものと思料される。これを要するに所論起訴状も原判決も本件接収地の地代値上問題にまつわる被告人等の刑事上の責任を追及しようとしている点においては両者全く其の軌を一にし、其の間何等差異あるを見ない。只其の職務関係と金員授受の関連性について前者(起訴状)は着眼点を被告人池田は被告人加藤等地主のため「地代を高額に算定してやつた」という所に置いたのに対し後者(原判決)は被告人池田は被告人加藤に対し「情報を提供した」という点に置いたちがいがあるに過ぎない。然り而して斯の如き両者の摘示する犯罪事実の差異は本件贈収賄罪に関する公訴事実の同一性に何等消長を及ぼすものでなく又被告人等の防禦権の行使に実質的不利益をもたらすものでもないから原審の如く訴因変更等の手続を講ずることなく所論起訴状記載の各公訴事実について審判することができるものと解するを相当とする。従つて所論のように原判決は審判の請求を受けた事件について判決をせず且つ審判の請求を受けない事件について判決をした違法があると非議することはできない。なお所論は原判決が「情報提供等」の謝礼の趣旨で云々と判示している点を捉え、その「等」とは何を指すか全く不明であると論難するので、この点について訴訟記録を調査するに、被告人加藤の検察官に対する昭和二十九年三月三日附供述調書によると、同被告人が池田に金五万円を贈つたのは池田に地目変更をして宅地とすれば賃貸料ははるかに良くなると聞いたことや池田から管理課古角係長、小林係長等を紹介されたお礼の意味で贈つたものであると供述していることが認められ、その他関係各証拠に徴すれば本件の現金五万円は被告人加藤が被告人池田より原判示情報提供を受けたことに対する謝礼が主たるものであるが、そのほかに右の如く被告人池田から他の関係係員を紹介して貰つたことに対する謝礼の意味をも含めて供与したものであることが窺われるので、原判決は所論の如く「情報提供等」の謝礼の趣旨でと判示したものと思われる。尤も被告人池田が被告人加藤を他の係員に紹介することは被告人池田の職務行為とは見られず、又其の職務行為と密接な関係を有するものとも見られないから右紹介に対する謝礼の意味で供与した点は犯罪を構成するものと速断することはできない筋合であるが、本件の現金五万円は情報提供に対する謝礼を主たる目的とし、これに附加し他の係員を紹介して貰つたことに対する謝礼の意味をも含め不可分的に一括して授受されたものと認むべきものであるからかかる場合原判決の判示する如く被告人加藤と被告人池田との間に情報提供等の謝礼の趣旨で現金五万円の授受が行われたものと認め、因つて以て現金五万円全額につき贈収賄罪の成立を肯定するの外なく、右原判決の措置を非難すべき限りでない。即ち論旨はいずれも理由がない。

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